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過払金が生じた場合の調停条項

(1)残債務がある場合
利息制限法に基づく再計算により債務を確定させ、将来利息を付さずに分括払いとする調停が成立することになる。このとき、懈怠約款として、調停後、債務者が途中で返済ができなくなった場合には、債務者は期限の利益を喪失し、残債務を債権者に一括して支払う旨の緊怠約款を調停調書や一七条決定に付することは多い。

(2)債務がない場合
利息制限法による再計算結果で、債務が存在しないことが判明した場合には、「申立人の相手方に対する債務は存在しない」という調停が成立することになる。

特定調停は、債務者が返済可能な金額を設定し、債務の返済方法を債務者債権者間で協議して、債務者の経済的再生を目的とするものである。しかし、長期間、利息制限法違反の利息を支払っているような場合には、利息制限法に基づく再計算により債務が大幅に減額するだけでなく、反対に、債権者に払い過ぎた利息に対する請求権が生じていることも珍しくない。しかし、特定調停においては、申立人の貸金業者に対する過払金を取り戻すことを目的とする特定調停が成立することはほとんどなく、申立人の債務がないことを確認するに止まっている。ただし、一部の簡易裁判所では、過払金の返還を認める一七条決定を発令したケースもある。

特定調停では、相手方から申立人への過払金の返還を内容とする特定調停が成立することはほとんどの場合ない。特定調停は、特定債務者の経済的再生という目的、言い換えれば債務弁済に窮している債務者の生活の立て直しのための制度であり、相手方から過払金を取り返すというような債権回収を目的とするものではないという理由による。ただし、一部の簡易裁判所において、過払金返還が特定調停の目的に沿ったものとして認められた調停が成立した事例もある。

例えば、債権者と債務者の間に、貸金と立替金などの複数の契約があり、立替金については残債務があるのに対し、貸金については過払金が生じている場合、立替金と貸金を相殺することで、実質的に過払金請求が認められているといえる。また、一七条決定の条項において、相手方の過払金債務の支払義務を認めた場合もある。事例を掲載する。これは、一七条決定において、過払金の返還を認めた特殊な例である。なお、この場合、一七条決定内で過払金の返還を認めており、特定調停後に過払金返還をする必要がないため、清算条項が付されている。

不動産担保がある場合の一七条決定とは

債権者が金銭消費貸借について、抵当権または根抵当権など不動産担保を設定している場合に、債務者が債務返済に窮し、特定調停の申立てをすると、債権者は抵当権または根抵当権の優先弁済権を主張して、債務の減額や将来利息の免除に応じないことが多くある。しかし、特定調停は多重債務者の経済的更生を目的とするものであり、不動産の担保の有無によって解決方法が変更するものではない。よって、不動産の担保がある場合においても、不動産の担保がない債務と同様に、取引開始時点からのすべての取引履歴に基づき、利息制限法所定の制限利息によって元本充当計算を行い、残元本に将来利息を付けない長期分割弁済での交渉をする。

結果として、不動産担保がある場合においても、無担保同様の特定調停が成立しているケースが多い。また、不動産担保がある場合は、申立人が残債務を全額弁済したときには、相手方は不動産担保抹消登記に応じるという条項が必要である。連帯保証人がおり、不動産担保がある場合の一七条決定記載例を掲載する。一七条決定は、実質的には裁判所による最終的な調停解決案の提示といえるが、裁判所と当事者との公平を保つため、当事者の異議申立ての制度を設置することにより、当事者間に一七条決定を受け入れるかどうかの選択権を残している。一七条決定が発令された場合、当事者または利害関係人は、一七条決定の内容に不服があるときには、異議の申立てをすることができる。利害関係人は、調停に参加しているといないとを問わない。

利害関係人としては連帯保証人、債務承継人などが考えられる。一七条決定に対する異議申立ては、当事者である申立人または利害関係人が一七条決定の告知を受けた日から二週間以内にする必要がある。この期間の計算方法は、初日不算入で、期間の末日が祭日その他の休日に当たるときは、その翌日に期間は満了する(民一四〇条、民訴九五条一項・三項)。異議の申立ては、規則上、書面または口頭のいずれの方法によってもできるとされているが、通常、書面により異議申立てがされている。異議申立てには理由は不要である。異議の申立てがあった場合、一七条決定の効力は無条件で直ちに絶対的に効力を失う。その異議に実質的な理由があるかどうか等その内容のいかんを問わない。異議の申立てがなかった場合、一七条決定は、裁判上の和解と同一の効力を有する。

一七条決定の内容とは

(1)意義
民事調停法において以下のとおり定めている。「裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる。この決定においては、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる」(一七条)。すなわち、調停に代わる決定は、当事者一方の頑固な意思により、またはわずかな意見の相違によって、調停が不成立に終わり、調停手続きが徒労に終わることを避けるためにできた制度である。調停が成立する見込みがない場合において、裁判所が、調停の解決のために必要な決定をすることができることを認めている。裁判所が一七条決定を発令をする際、必ず調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴取する。特定調停においては、調停成立事案とほぼ同数の一七条決定が発令されている。

(2)一七条決定の要件
1 調停成立の見込みがないこと
当事者間に合意が成立する見込みがない場合、もしくは成立した合意が相当でない場合で、相当性のある合意が期待できない場合である。

2 決定内容が「公正かつ妥当で経済的合理性を有する」ものであること(特定調停一五条)
特定債務者の経済的制裁に資するという観点から、当事者双方にとって経済的に合理的であることが求められる。例えば、債権者にとれば、債務者が破産に至るよりも、譲歩して合意する方が有利である場合もある。また、債務者にとっても担保権者と一般債権者の間に優劣をつけることもあろう。例えば、相手方である債権者が出頭しないため、話し合いにより互譲を求める余地がない場合などがこれに当たる。実務では、調停委員が相手方に電話による事情聴取をし、一七条決定の内容を相手方が承諾した後に、裁判所が一七条決定を発令する場合がほとんどである。

(3)債務を分割弁済する場合の一七条決定
残債務を分割弁済するという特定調停が成立した場合の調停調書と同様の内容の一七条決定が発令される。残債務が、取引当初からの履歴が開示された上で利息制限法に基づく再計算されたものであるかどうか確認する必要がある。

(4)残債務がない場合の一七条決定
特定調停では、申立人から相手方への債務が存在しないことが判明した場合、「申立人の相手方に対する債務は存在しない」という調停、または一七条決定が成立する場合が多い。

(5)清算条項付一七条決定の注意点
「申立人および相手方の間には、一切の債権債務がない」という調停条項が定められることがある。計算された過払金が少額であるため過払金返還請求をするまでもないと判断して、清算条項を定め事件を終了させることを目的する場合である。ただし、現在、清算条項を付ける一七条決定は少なくなっている。

文書提出命令の申立てに関して

(1)文書提出命令を必要とする場合
調停委員会は、特定調停のために特に必要があると認めるときは、当事者または参加人に対して事件に関係する文書または物件の提出を求めることができる(特定調停一二条)。特定調停においては、関係権利者は、証拠書類を提出しなければならない(特定調停規四条)が、取引履歴を一部しか開示しない等、証拠書類提出に応じない場合には特定調停法一二条「特に必要があると認めるとき」に該当し、文書提出命令の申立てまたは職権での発令をすることができる。

(2)申立人・申立書
文書提出命令の申立ては、特定調停申立てと同時もしくは申立て後速やかに、特定債務者が申立人となって行うものであるが、調停委員会が職権で発令することもできる。

(3)文書提出命令を求める文書
債務弁済に関する特定調停の場合は、債権者債務者間の契約書、取引明細などが特定調停法二一条「事件に関係のある文書」に該当する。

(4)文書提出命令の理由
文書提出命令申立てには理由の記載が必要である。例えば、「相手方は、申立人の再三の取引履歴開示請求にもかかわらず、一向にこれに応じない。よって、調停委員会より発令するよう求める」等、具体的に開示を求めたが相手方が協力しなかった経緯などを記載する。

(5)文書提出命令発令と強制力
通常、貸金業者は、ほとんどの場合取引履歴を開示しているが、全部または一部の取引履歴の開示に応じない場合もある。特定調停法二四条において、「当事者又は参加人が正当な理由なく第二一条の規定による文書又は物件の提出の要求に応じないときは、裁判所は、十万円以下の過料に処する」と規定されており、取引履歴の開示に応じなかった業者に対し、文書提出命令により文書開示を求めると、業者は過料の制裁を逃れるために開示に応じることが多くあり、特定調停を優位に進めることができる。

(6)文書提出命令に応じない業者への対策
貸金業者は貸金業法一九条の二の規定により、当然に文書の提出が必要とされている。文書提出命令が発令されたにもかかわらず、文書提出に応じない業者に対しては監督官庁への連絡や行政処分の申立てなども検討すべきであろう。

調停前措置命令の申立方法と取引履歴の開示

1 調停前措置命令の申立方法
(1)申立書・添付書面
特定調停申立てと調停前の措置申立ては同時に申立てをすることになる。次頁に、調停前の措置命令申立書を掲載する。

(2)関係当事者への審尋
調停委員会は、調停前の措置命令発令の必要性を判断するために申立人の審尋を行う。相手方については簡易裁判所の判断で行うこともできるが、実施することはごく稀である。

(3)不服申立て
調停前の措置命令に対して、相手方その他の事件の関係人は不服申立てをすることができない。一方、調停前の措置の申立てを却下した処分に対して、申立人は不服申立てができない。

(4)過料による制裁
調停前の措置命令が発令された際、相手方が正当な理由なく調停前の措置に従わない場合には、金一〇万円以下の過料に処することができる(民調三五条)。

2 取引履歴の開示
(1)注意点
特定調停手続きは、主に調停委員が相手方との交渉や調停成立案の提示をするが、申立人は調停で提出された取引履歴の内容や利息制限法に基づく再計算結果を確認することが必要である。

(2)利息制限法による再計算
すでに説明したとおり、相手方の提出した約定の残債務は、通常利息制限法以上の利息契約によるものであり、利息制限法の制限利率(一〇万円未満・年利二〇%、一〇万円以上一〇〇万円未満・年利一八%、一〇〇万円以上・年利一五%)に基づいて債権残高を再計算する。利息制限法の制限利率を超えた利息は無効であるため、正しい債権額を確認するために無効の利息を元金に算入して利息制限法に基づく再計算をする必要があるからである。

(3)裁判所、調停委員の権限
特定調停の申立てがあった場合、特定調停法においては、裁判所や調停委員に事件に関係する書類の提出を求める権限が認められているため、実務では裁判所書記官・調停委員から直接業者に対して、取引履歴の開示を求めることになる。

調停前の措置申立てが必要となる場合

商工ローン業者が手形を担保として保持している場合、業者が手形を取立てに回すということになれば、申立人において手形不渡りを免れることができず、事業の倒産にかかわることがある。よって、手形の不渡りを止める手続きとして、「相手方は、上記当事者間の御庁平成○年(特ノ)第○○号特定調停事件が終了するまで、別紙約束手形目録記載の約束手形を支払場所に呈示して権利を行使し、または裏書譲渡その他一切の処分をしてはならない。第三債務者は、別紙約束手形目録記載の約束手形に基づき、相手方に対して支払いをしてはならない」とする調停前の措置命令が必要となる。

調停前の措置命令は、手形の処分禁止の仮処分手続きと同様の効果を無担保で得ることが可能である。調停の事前措置が一般的になったことにより、手形をとっている業者の中でも、代理人からの申出のみで、業者が手形の返却に応じるケースも増えている。このような労力をかけない手形返却が可能となるためにも、簡裁での取扱いを定着させることが必要である。また、手形の処分禁止に限らず、調停の成立およびその執行を保全するために必要な行為であれば、あらゆる命令が発令される可能性がある。

よって、担保が必要となる民事調停規則六条による民事執行停止申立てにおいて保証金の準備ができない場合の補完的対応策として利用することが可能である。調停前の措置命令は、以前はあまり利用されているとはいえない状態であったが、調停内で紛争の解決を図るという趣旨から、商工ローン問題で債務者が振り出した手形や小切手の呈示を無担保で止めることができるようになり、次第に調停前の措置命令を利用する人が増えてきている。この手続きを利用するメリットとしては、保証金が不要、つまり無担保での発令が可能であることがあげられる。

例えば、従前、商工ローン問題で債務者が振り出した手形や小切手の呈示を止めるために「処分禁止の仮処分手続き」が多用されていた。しかし、通常手形額面の一〇%から二〇%の保証金が必要となり、例えば額面一千万円の手形を振り出している場合には一〇〇万円から二〇〇万円の保証金が必要となるため、これら保証金の調達が困難な特定債務者がほとんどであった。これに対し、特定調停では、調停前の措置命令が発令される際に保証金は不要である。